独立してクリニックを開業するうえで、資金調達に関してはお悩みの方も多いのではないでしょうか?特に整形外科の場合、他の診療科よりも開業資金が高額になる傾向があるため、資金繰りは大きなハードルとなります。
また、開業するまでにはおよそ10ヶ月程度の準備期間が必要ですが、開業準備を進めながら勤務医として働くことは困難です。準備期間は無給になる可能性が高いと考えておいたほうが良いでしょう。
開業準備を進めるため、まずは医療機器の販売会社やコンサルタント、税理士などに相談して、開業支援を受けることをお考えになる方も多いことと思います。
この記事では、整形外科クリニックを開業するために必要な資金の目安や、自己資金が少ない場合の資金の調達方法、開業を成功させるためのポイントなどについて紹介します。開業準備の参考になれば幸いです。
整形外科の開業資金の目安
整形外科クリニックを開業するためには、土地や建物費用に加え、設備費用などに1,500万円~3,500万円が必要となります。そのため開業に必要な資金は、5,000万~9,000万円以上が目安となります。
また、開業形態や開業する場所によって費用は大きく異なり、戸建てになると1億円を超えることもあります。
開業形態には、戸建て、テナント、医療モール(クリニックモール)などがあります。それぞれのメリットやデメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
テナント | ・コストを抑えられる
・人通りの多い場所で開業できるため集患しやすい ・クリニック移転時に撤去しやすい |
・特殊工事が難しい場合がある |
戸建て | ・外観や内装やレイアウトなど、思いどおりに実現しやすい | ・コストがかかる
・打ち合わせ時間なども含め、準備期間が長くなる |
医療モール | ・利便性が高く、集患しやすい | ・一般的なビルに比べ、賃料や管理費用が高くなる |
賃貸で借りる場合には、保証金・敷金(月額賃料の6~12ヶ月程度)や、礼金(月額賃料の1~3ヶ月程度)、仲介手数料なども発生します。居抜き物件をそのまま使用する場合は工事費を節約することができますが、内装に手を加える場合は坪単価30~50万円ほどの見積りが必要です。
歩行が困難な患者を想定した場合は、車での通院が多くなることが想定されるため、広い土地を確保して駐車可能台数を多くとることや、近隣にパーキングが多い立地が望ましいでしょう。
新規の開業ではなく承継開業であれば、物件にかかる費用は大幅に抑えられます。
整形外科の開業で初期費用が高くなる理由
整形外科クリニックを開業する際の初期費用は、他の診療科よりも高額になる傾向があります。その理由について解説します。
医療機器の費用が高い
整形外科では検査やリハビリなどに必要な医療機器が多く、その一つひとつがどれも高額なものばかりです。そのため、機器の導入に非常に多くのコストがかかります。
整形外科に必要な主な医療機器と、導入にかかるおおよその費用を以下にまとめました。
医療機器 | おおよその費用 |
---|---|
一般撮影装置(X線) | 450万円~500万円 |
CR/PACS装置 | 700万円 |
骨密度計 | 400万円 |
リハビリ機器(温パック、けん引機、ウォーターベッド、干渉波、マイクロ波など) | 1,120万円~
(導入する機器や台数によって変動) |
ギプスカッタ | 20万円 |
超音波診断装置 | 300万円 |
電子カルテ(3台の場合) | 300万円 |
滅菌器 | 30万円 |
医療機器のなかでも最も費用がかかるのは、リハビリ用の機器です。MRIを導入して開業する場合は、さらに6,000万円~1億円以上の資金が必要になるといわれています。
リハビリ機器を充実させることは大切ですが、開業当初から一度にすべての機器を買いそろえることは望ましくありません。患者がまだ定着していないうちから高額な医療機器を導入したり、担当者を多く雇用したりするとコスト面での負担が大きくなります。経営が苦しくなることも予想されるため、慎重に検討することをおすすめします。
リハビリテーション実施のための敷地面積と人材が高くつく
整形外科で費用がかさむ一つの要因は、リハビリの存在です。
整形外科でリハビリを実施するためには、少なくとも50~70坪ほどの広さがある物件の確保が必要です。他の診療科と比べると必要な敷地面積が大きいため、物件や内装にかかる費用も高額になります。
その他、理学療法士や作業療法士、放射線技師といった専門職の人件費も必要です。
整形外科開業医の気になる平均年収とは?
整形外科の開業医の平均年収は約2,988万円(※1)、病院勤務医の平均年収は約1,289.9万円(※2)です。
単純に比較すると開業医の平均年収のほうが高いようにも思えますが、開業医の場合、売上がそのままの手取りになるわけではありません。そこから経費を差し引いた金額が実際の年収となるため、経営がうまくいかなかった場合などは年収がゼロになるリスクもあるのです。
開業医として年収を上げるためには、開業後の早い段階から集患対策を行って患者数を増やし、経営を安定させることが大切です。そして、患者離れを防ぐためにはスタッフの育成も重要なポイントとなります。
患者から選ばれるような治療を提供することができれば、安定した集患・増患が期待でき、初期投資の早期回収も見込めます。年収アップも期待できるでしょう。
※1参考:厚生労働省「第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」
※2参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「勤務医の就労実態と意識に関する調査」
整形外科の開業資金の調達方法
整形外科の開業資金は診療科のなかでも高額であるため、すべてを自己資金で賄うことは容易ではありません。一般的には、開業資金の1~2割程度を目安に自己資金を準備し、残りは金融機関の融資を活用するケースが多いようです。
融資を受ける際に利用できる可能性のある、主な機関金融機関を紹介します。
日本政策金融公庫
日本政策金融公庫は、政府系金融機関のひとつです。融資の種類に応じて各種条件が設定されており、比較的低金利で融資を受けられる傾向にあります。取引の実績がない場合でも申し込みがしやすいため、開業資金の調達先としてはメジャーです。実務経験や個人信用に問題がなければ、自己資金が少なくても借入が可能であるため、個人事業主でも借りやすいです。日本政策金融公庫は国営の金融機関であるため、保証人や担保は必要ありません。融資を受けるハードルは最も低いといえるでしょう。
医師信用組合
各地域の医師信用組合では「クリニック開業向けのローン」が設けられており、医師会・医師信用組合に加入していればローンの申し込みが可能です。医師信用組合は、医師会員の相互扶助を目的とした金融機関であるため、医師会員にとっては金利や返済期間など有利な条件が期待できます。無担保での融資が受けられる場合もあるようです。
ただし、地域の医師会と組合への加入が必須条件となっているため、地域外へ転出した場合は追加融資が受けられないといったデメリットがあります。
銀行などの民間金融機関
民間の金融機関では、クリニックの開業を対象とした融資プランを提供しているところが多くあります。融資の上限額や金利、担保・保証人の有無といった条件は、金融機関によって異なります。審査のハードルは高めですが、比較的柔軟に対応してもらえることも多いようです。
金融機関の審査には2週間程度かかりますが、融資までが迅速なため、審査に通過できればスピーディーな資金調達が期待できます。
今後事業を継続していく上では金融機関から融資を受ける必要が出てくる可能性もあるため、早いうちに民間の金融機関と取引を開始しておくことも重要です。また、早期に取引を開始して実績を作り、次回の融資に備えるという考え方も大事です。
福祉医療機構
福祉医療機構は、社会福祉法人や医療機関を対象に資金の貸付事業を行なう、厚生労働省管轄の独立行政法人です。医療機器や備品を購入するための資金の融資を申し込むことができます。
融資限度額や融資期間は、融資対象や資金の種類によって異なります。また、指定されているエリアでの開業以外は融資が利用できないため、事前に確認しておく必要があります。
医療機器のリース企業
医療機器のリース企業から、開業資金を借り入れることもできます。リース会社ごとに融資期間や限度額は異なりますが、他の金融機関よりも審査がスピーディーで通りやすい傾向にあるため、融資を急ぐ場合などに適しています。ただし、リース会社を経由して金融機関から借入を行なうため、金利は高い傾向にあります。
整形外科の開業時に融資を受ける際のポイント
クリニックの開業をスムーズに進めるためにも、無事に審査を通過して融資を成功させたいものです。少しでも良い条件で融資を受けるために、次のポイントを押さえておきましょう。
具体的な事業計画の提出
融資を受けるためには、具体的な事業計画書の提出が必須です。融資の申請後は、事業計画書や面談に基づいて審査が行なわれるため、事業計画書の内容はとても重要です。
事業計画書に記載する内容は、必要資金とその調達方法といった資金計画や、開業後の見通しなどです。開業を実現できる可能性やリスクなどを、どこまではっきりと想定できているのかが重要なポイントとなります。
また、必要資金を具体的に把握するためには、「どのようなクリニックにしたいのか」というご自身の想いを明確にしておく必要があります。ビジョンが具体的になっていれば、クリニックの内装や必要な医療機器、人員配置のイメージがしやすく、そのために必要な資金も算出しやすいでしょう。
その他、審査に通過するためには、開業の動機や診療理念などを面談時にしっかりと伝えることも重要です。ご自身の地域の医療活性化に貢献したいという熱意とともに、堅実な事業計画を提出することで、融資担当者にも好印象を与えられるでしょう。
融資金額は事業計画に基づいて決定されるため、費用を多めに見積もり、運転資金として融資を受けることも可能です。しかし、定期的に試算表や決算書等を金融機関に対して提出が必要であり、その提出書類をもとに実績確認が行なわれます。あまりに事業計画と実績が乖離している場合は、金利の見直しや、取引自体の見直しが行なわれる可能性もありますので、地に足のついた事業計画を作成するよう心がけましょう。
税理士やコンサルタントへの協力依頼
整形外科の開業資金は高額で、融資申請には専門知識が必要となることも多いため、経験豊富な税理士やコンサルタントの協力を仰ぐのも良いでしょう。1人で開業準備を行なうことも可能ですが、医療業界に精通している専門家のサポートを得ることで、資金計画や事業全体の計画の精度もさらに上がります。
整形外科の開業資金をできるだけ抑えるためには
整形外科の開業に失敗しないためには、無駄な投資を避けることが特に重要です。必要なものと不要なものをしっかりと吟味して、初期費用をできるだけ抑えるための工夫を行いましょう。
居抜き物件や家賃相場が低い地域を選ぶ
新築開業するとデザインやレイアウトを自由にできますが、物件だけでも莫大な資金が必要になります。
一方、居抜き物件を活用すると、初期費用を大幅に抑えることができます。以前のテナントがクリニックだった場合は、そのまま利用可能、もしくは必要に応じて内装を一部修繕するだけで済むというケースも多くあります。
物件によっては医療機器や処置台、待合室用の椅子などの設備も残されていることがあるため、ご自身のイメージに近い居抜き物件が見つかれば、開業資金を大幅に抑えられるでしょう。
人件費を最小限に抑える
人件費を抑えることで赤字になるリスクを軽減することができます。経営が安定するまでの間はスタッフの雇用人数を控え、まずは少人数でスタートすることも検討してみてください。
マーケティングを自分で行なう
整形外科は、若年層から高齢者まで幅広い年齢層の患者が利用します。高年齢層に向けては看板やチラシなどのアナログな方法が有効ですが、若年層にはインターネット上で行なうWebマーケティングが有効なため、集患のためにはさまざまな方法でマーケティングを実施する必要があります。
これらすべてをマーケティング業者に依頼すると費用がかさみます。
チラシのデザインや印刷、配布のほか、ホームページの開設、SNS上での情報発信など、できる範囲だけでもご自身で実施することで、マーケティング費用を最小限に抑えることができます。ご自身の開業予定エリアの特性やクリニックの方針を踏まえ、自分でできる宣伝活動がないかどうか、よく検討してみると良いでしょう。
医療機器のリース・レンタルを活用する
整形外科に必要な医療機器は高額なものばかりで、開業時にすべてを買いそろえることは困難です。少しずつ買いそろえていくことが賢明ではありますが、経営が安定するまでの間はリースやレンタルを活用することも初期費用の軽減に役立ちます。
医療機器のリース契約を行なうことで、そのリース会社から開業資金の融資を受けられる可能性もあります。
整形外科の医療機器のリース・レンタルとは
リースとレンタルの違い
医療機器のリースとレンタルでは、契約期間の長さや価格に違いがあります。
リースは必要な機器を比較的長期間(半年から10年程度)使用することができますが、事前審査があり、導入までに時間がかかります。
一方でレンタルは1日から週単位、月単位などの短期間で機器を借りることが可能です。しかし、機器には限りがあるため、希望する機器のレンタルができないこともあります。
リース・レンタルサービスを選ぶ際のポイント
医療機器のリース・レンタルサービスは数多くありますが、利用するサービスを選ぶ際には次のポイントを押さえておきましょう。
1、最低契約日数の確認
レンタルの場合、最低レンタル日数はサービスによって異なるため、希望する期間だけ無駄なく借りることができるのかどうかを、必ず確認しておきましょう。複数機器のレンタルを検討している場合は、取り扱う機器が充実しているサービスを選ぶことも大切です。
2、保守契約の内容を確認する
保守にかかる費用は、リースやレンタル料にあらかじめ含まれていることもあれば、オプションで追加することもあります。保守契約がないと、万が一故障があった場合などには高額な支払いが発生する可能性もあります。サービスによって契約内容は異なることもあるため注意してください。
医療機器のリース・レンタルか購入かで迷った場合、耐用年数の長い機器に関しては、長い目で見ると購入したほうがお得に利用できる場合もあります。一方、モデルチェンジやバージョンアップが頻繁に行われる医療機器であれば、リース・レンタルのほうが適しているでしょう。
まとめ
整形外科の開業を成功させるためには、無駄な投資を避け、できるだけ初期費用を抑えることが重要なポイントになります。さらに経営を軌道に乗せて長く安定した利益を出すためには、集患対策や患者とのコミュニケーションも大切です。
ご自身が理想とする診療スタイルを実現するために、綿密な計画を立て、専門家の力も借りながら、一つひとつのハードルをクリアしていきましょう。
本記事に記載しております内容は、2023年7月時点の情報を元にしております。
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<監修者>
佐藤憲亮税理士事務所
税理士 佐藤憲亮(さとうけんすけ)
プロフィール
医療系特化事務所、税理士法人の役員を経て、気軽に相談できる専門家として税務顧問業務をメインに活動。実務で得た知識や経験を活かし、税務記事や税務論文の執筆、自身でブログの運営をしている書くことが好きな税理士。大学卒業後、税理士事務所で14年の実務経験を積みながら、大学院で2年間税法を学ぶ。2020年に税理士登録。2023年6月に京都市中京区にて税理士として独立。