ビジネスネットワーク

整形外科クリニックの経営を成功させるには、認知度を高めるマーケティングや競合との差別化が必要です。経営戦略を立てずに開業した場合、集客や資金繰りに失敗するケースも少なくありません。さらに、整形外科を取り巻く現状も把握しておくと、長期的な経営に役立ちます。

 

本記事では、整形外科の開業前に知っておきたい失敗パターン、整形外科の現状と今後の展望、経営戦略におけるマーケティングと差別化について解説します。

 

整形外科の経営に失敗するパターン

頭を抱える男性

整形外科を開業したものの、失敗するパターンは主に以下のものが挙げられます。

 

認知されず集客できない

クリニックの存在が認知されていないことで、集客できずに経営に失敗するケースはよく見受けられます。特に開業エリアに競合のクリニックが多い場合、集客が難しいのが現実です。

 

そもそも整形外科を開業したからといって、必ずしも自然と患者が集まるわけではありません。クリニックを認知してもらうためには、折り込みチラシやホームページ、SNSなどのメディアを活用した広告戦略が必要です。特に、整形外科の患者は年齢層が幅広いため、ターゲットに合ったメディアの選択が求められるでしょう。

 

なお、開業準備を進める段階で「開業コスト」を意識しすぎると、集客への意識が薄れてしまいがちです。開業準備中はコストだけではなく、常に集客方法についても意識しましょう。

 

採用した人材が定着しない

整形外科は医師と看護師だけでなく、理学療法士・作業療法士など、多くのスタッフが必要です。しかし、スタッフを採用したものの、定着せずに退職してしまうケースはよくあります。スタッフの退職理由は、勤務内容や雇用条件、職場環境など、人によってさまざまです。

 

整形外科を開業すると、医師として目の前の患者に接するだけでなく、経営者としてスタッフにも気を配らなければなりません。勤務医ではそこまで気にしなくても良かったかもしれませんが、開業医ではスタッフの人間関係に振り回され、思うような経営ができないケースも少なくありません。

 

資金のやりくりに苦労する

整形外科はほかの診療科と異なり、建物の広さが必要なうえに、使用する医療機器が多くなりがちです。その分、開業資金が高額になりやすいため、資金のやりくりがうまくいかずに失敗するケースもあります。

 

多額のコストをかけて必要な医療機器をすべてそろえ、スタッフを何人も雇用しても、開業直後は患者が少なく、赤字になる可能性も否定できません。

 

そのため、開業時は最小限の医療機器を購入して徐々に手を広げる、または医療機器のリースやレンタルを活用するなど、無理のない資金計画が重要です。

 

整形外科の開業資金、医療機器のリースやレンタルなど、以下の関連記事で詳しく解説しているので、併せてご確認ください。

 

→関連記事「整形外科の開業資金はどれくらい?初期費用が高い理由と資金調達方法を解説

 

整形外科を取り巻く現状

厚生労働省の「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、整形外科医の人数は2万2,520人で、医師全体のうち7.0%の割合を占めます。施設の種類で分類すると、病院の整形外科医は1万4,419人(6.7%)、診療所では8,101人(7.6%)という結果でした。

 

整形外科は、新患数・外来患者数・入院患者数・手術件数などが比較的多い診療科です。リハビリテーション、スポーツによる傷害、交通事故や労働災害など、整形外科には一定の需要があります。ただし、手術件数は近年減少傾向にあるため、機能回復を目的とした理学療法、リハビリテーションが治療の中心になるでしょう。

 

特に、整形外科は高齢者の患者が多いため、リハビリテーションをはじめとする介護事業が必須になると思われます。2025年にかけて後期高齢者人口の急増が見込まれるため、通所や介護によるリハビリテーションの需要が増加する可能性もあるでしょう。

 

リハビリテーションは再診患者の割合が高いため、質の高いリハビリテーションを提供することが重要です。リハビリテーション施設のある整形外科も増えつつありますが、近年では運動器(Ⅰ)が減少し、運動器(Ⅱ)、(Ⅲ)の施設基準を持つ診療所も増加傾向にあります。

 

ただし、整形外科は整骨院、通所介護事業所などの競合相手により、患者が分散し、競争が激化しがちです。本来は整形外科で治療すべきところを整骨院などに通院する患者も少なくないため、競合との差別化が求められます。

 

なお、2024年には診療報酬と介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時に改定されます。大胆な改定の要因は、高齢者の急増と労働人口の減少です。医療と介護の需要が増えると社会保障費も増加し、財源の確保が困難になるためです。

 

今後は、地域で医療と介護が受けられる地域包括ケアシステムの推進、医療DXの導入など、システム面においても大きな変革が予想されます。これから整形外科を開業する場合は、最新の情報を随時チェックしておきましょう。

 

整形外科経営を成功させるマーケティング戦略

タブレットを操作する人

整形外科の経営を成功させるには、認知や集客に関わるマーケティング戦略が不可欠です。次に、具体的なマーケティング戦略のコツについて解説します。

 

開業エリアの調査

開業予定地となるエリアに、競合のクリニックがあるかチェックしましょう。先に述べたように、整形外科はクリニックを開業する割合が高いため、近隣に競合があると患者の取り合いになります。診療圏内に競合がなければ、安定した経営が見込める可能性が高まるでしょう。

 

さらに、開業エリアの特性を把握するため、周辺住民の人口や年齢分布、住民の行動範囲などの調査が必要です。介護施設の有無に加え、スポーツが盛んな地域か、周辺が観光地であるかなど、さまざまな観点で調査を実施しましょう。調査結果をもとに、どのように競合と差別化を図るか検討することがポイントです。

 

例えば、高齢者が多い地域であればリハビリテーションに重点を置く、周辺に学校がある場合はスポーツ外来を開設する、ペインクリニックを併設するなどが挙げられます。

 

なお、住民の行動範囲など、さまざまな条件下での調査が必要になるため、専門のコンサルタントなどに依頼してもよいでしょう。

 

ターゲットに合わせた広告戦略

整形外科の開業を周辺住民に知ってもらうには、地域の特性や患者の年代など、ターゲットに合った広告戦略が必要です。

 

高齢者はインターネットに触れない方も多いため、新聞広告や折り込みチラシなどの紙媒体、看板などのオフライン広告が適しています。

 

一方、若年層はWebによる集客が適しているため、Webサイト・SNS・リスティング広告などを活用するとよいでしょう。Webサイトを作る際は、SEO対策やMEO対策を実施すると集客に効果的です。

 

ただし、整形外科を含め、医療機関が広告を出す場合、厚生労働省が定める「医療広告ガイドライン」に準拠することが基本です。医学的根拠のない広告だけでなく、患者の主観や伝聞による治療内容や効果に対する体験談など、使用が禁止されている表現があります。

 

医療広告ガイドラインの違反を指摘された場合、すみやかに修正すれば罰則を受けることはありあません。ただし、修正せずに放置すると、虚偽広告として罰則が科される可能性があるので十分に注意してください。

 

 

競合との差別化で整形外科を成功させる経営戦略

 

開業エリアの調査や分析に基づき、差別化のポイントを決めることが経営に成功するコツです。次に、具体的な差別化のポイントを5つ解説します。

 

リハビリテーションの実施

整形外科に通院する患者の多くは、リハビリテーションをメインに受診します。患者の通院頻度が高いこともあり、安定的な収益が見込めるメリットがあります。リハビリテーションで差別化を図るには、運動器によるリハビリテーションを充実させましょう。

 

運動器のリハビリテーションは医療保険が適用されるうえに、介護事業所では実施できないため差別化が可能です。治療からリハビリテーションまで一貫して提供できれば、患者の流出も食い止められます。

 

また、高齢者の患者が多い場合、介護保険を利用した通所リハビリテーションの導入による差別化も可能です。通所リハビリテーションとは、要介護認定の患者を対象にした身体機能維持を目的としたリハビリテーションのことです。通所リハビリテーションを導入すると、来院の頻度が増えるため集客の安定が見込めます。

 

整形外科医が常駐していれば病状の変化に迅速に対応できるため、患者からの信頼度が高まります。また、医療保険による運動器リハビリテーションの期限が切れたあとも、介護保険で引き続きリハビリテーションの提供が可能です。

 

なお、ケアマネジャーと連携できれば、ケアプランの一環としてリハビリテーションを実施することも可能です。

 

整形外科だけができる強みを活かす

整骨院や通所介護事業所といった競合もありますが、医療機関だけができる強みで差別化を図れます。なぜなら、患者の病気や怪我を診断し、治療できるのは医師だけにできることだからです。必要に応じてCTスキャンやX線、エコーなどの医療機器で検査を行ない、施術や投薬といった適切な治療やリハビリテーションを提供することが差別化につながります。

 

また、整形外科で適切な診断と治療を受けてもらうことで、状況に応じて地域のクリニックや通所介護事業所を紹介するといった連携も可能です。整形外科として地域との連携を深めることで、患者を増やす効果が期待できます。

 

専門スタッフを充実させる

整形外科は医師や看護師だけでなく、理学療法士、作業療法士などの専門スタッフの人材も必要です。スタッフの協力なくしては経営が成功しないため、信頼できるスタッフを充実させることが大切です。

 

スタッフを募集する際は、クリニックの理念や必要とするスタッフ像を明確に設定しましょう。クリニックの理念や要望をあらかじめ伝えておくことで、応募者とのミスマッチを防げます。

 

なお、採用する人材は経験やスキルを重視するだけでなく、本人の人柄、経営者との相性、コミュニケーション能力なども考慮しましょう。整形外科は地域性が高く、患者との距離も近いため、話しやすいスタッフであれば患者も安心します。

 

ただし、冒頭でも触れたように、人材を確保できたとしても、定着させることが一番難しいのが実情です。整形外科クリニックは医師が経営することもあって、経営やマネジメントに多くの時間を割くことは困難です。スタッフとのコミュニケーション不足で認識に誤解が生じる、業務プロセスや仕事の責任の所在が不明確など、スタッフが不満を募らせることもあります。

 

スタッフの定着率を上げるには、マネジメントにも力を入れましょう。職場内のコミュニケーションが不足している場合、定期的なミーティングで情報共有するなど、積極的にスタッフと触れ合う機会を作ることがおすすめです。

 

また、労働環境に不満がある場合は、給与の見直しや柔軟な勤務形態の提案、福利厚生の導入などを実施しましょう。特に、スタッフルームの環境や設備を充実させることは、離職率の低下に役立ちます。

 

例えば、着替えと休憩のスペースを分ける、採光や換気ができる部屋にするなど、十分な休息がとれる環境があるとよいでしょう。また、質のいい家具を置く、キッチンや電子レンジなどの家電製品を用意するなど、設備を充実させることでより快適に過ごせます。

 

スタッフルームを工夫する際は、スタッフの意見を取り入れ、ニーズのある設備を導入するとモチベーションアップが期待できるでしょう。ただし、休憩中の様子を患者さんに見られないよう、場所や動線を工夫することが大切です。

 

地域のクリニックと連携

地域のクリニックと連携すると、相互に患者を紹介できるメリットがあります。整形外科の場合、一般内科や循環器内科と連携することが一般的です。内科では肩こりや腰痛、膝の痛みなどの慢性的な症状を抱える患者も多いため、整形外科で長期的に通院することになる可能性もあります。

 

介護施設やケアハウスと連携すると、入所者や従業員の診察にも対応できます。なお、近隣に総合病院がある場合、回復期ケア病棟や脳神経外科との連携も可能です。

 

診療の幅とターゲティングの拡大

整形外科では、リハビリテーション以外の方法で診療の幅を広げることも可能です。例えば、土曜や夜間診療の実施や、ニンニク注射やビタミン注射、ブロック注射などの自由診療を取り入れるケースもあります。高齢者以外の患者も取り込めるため、集客のターゲティングの拡大が可能です。

 

なお、高齢者の患者がメインの場合、「骨粗しょう症外来」の設置を検討してもよいでしょう。定期的な骨密度測定検査、血液検査による骨代謝マーカーの検査などを通して、骨粗しょう症の予防や早期発見、早期治療につなげることができます。専門のスタッフがサポートすることで、高齢者の患者さんの満足度を高められます。

 

まとめ

整形外科の経営戦略を考えるには、開業エリアの調査を実施したうえで、具体的な差別化を図ると効率的です。広告戦略を実施する際は、ターゲットに合うメディアを選ぶだけでなく、医療広告ガイドラインに違反しないよう心がけてください。

 

整骨院や通所介護事業所との差別化においては、競合にはない強みを活かし、リハビリテーションなどの診療の幅を広げるとともに、地域のクリニックと連携を取ることも重要です。また、整形外科は多くのスタッフが必要になるため、スタッフの定着率を上げるマネジメント方法も検討する必要があります。

 

整形外科の開業を検討する方は、よくある失敗パターンを踏まえ、具体的な経営戦略をしっかり立てることで成功の確率を高めていきましょう。

 

 

本記事に記載しております内容は、2023年9月時点の情報を元にしております。

当サイトのコンテンツや情報において、可能な限り正確な情報を掲載するよう努めておりますが、誤情報や古い情報が含まれる可能性もあります。必ずしも正確性や合法性、安全性などについて保証をするものではなく、何らの責任を負うものではありません。

 

<監修者>

臼井雄志税理士事務所
所長 臼井 雄志(うすい ゆうし)

 

プロフィール

大学は臨床工学科へ進学し、臨床工学技士免許を取得。クリニックで透析治療に従事したのち、税理士法人に勤務しながら税理士試験を受験し、税理士資格を取得。現在は医療・介護・福祉特化の税理士事務所を経営。