手順のイメージ
 

初めて整形外科クリニックを開業する場合、どのような手順で準備を進めるべきか、わからないことが多いでしょう。クリニックの新規開業は時間を要するため、余裕を持ったスケジュールを立てる必要があります。また、開業がゴールではなく、経営を成功させるための工夫をすることも大切です。

 

この記事では整形外科クリニックの開業に向けて、具体的な準備期間、開業までの手順、成功のポイントについて解説します。

 

クリニック開業の準備はいつから始めるべき?

スケジュールのイメージ
 
診療科を問わず、一般的にクリニックの新規開業には1年以上の準備期間が必要です。戸建てのクリニックを建設する場合、2年近くの準備期間を要するケースも少なくありません。
 
開業地と不動産業者の選定、資金調達、内装工事の実施、スタッフの採用など、開業までには数多くの手順があります。また、保健所や厚生局など、行政機関への届出も提出しなければなりません。
 
これらの開業準備を始めるためには、まず適切な開業時期を決める必要があります。どの時期に開業したいのかを決めてから、1年~2年前から準備を始めるようにしましょう。
 

整形外科クリニックを開業する11の手順

事業計画書のイメージ
整形外科クリニックを開業する場合、以下の手順に沿って準備を進めます。同時並行で行う準備もあるため、あらかじめ大まかなスケジュールを立てておくとよいでしょう。
 

1.診療方針やコンセプトの確立

クリニックを開業するにあたって、まずは診療方針やコンセプトを明確にします。診療方針やコンセプトが明確になれば、開業地の選定や必要な医療機器、ホームページ作成など、物事の意思決定がスムーズに進みます。

 

診療方針を確立するには、開業の動機を掘り下げることが大切です。誰にどのような診療を、どのような形で提供したいのか、そもそもなぜ開業するのか、自分自身の内面に目を向けましょう。自分の考えを紙に書き出すと頭の中が整理され、診療方針がより固まりやすくなります。

 

2.事業計画の策定

開業時の支出や資金調達の内訳、開業後の収入見込みも含めた事業計画を策定します。診療内容やクリニックの規模を考慮し、緻密な事業計画を立てることが開業後の成功につながります。
 
開業時の支出には、土地や建物の取得費、敷金、内装工事費、広告宣伝費などが含まれます。また、収入の見込みを立てる場合、1日あたりの平均来院患者数と診療単価、年間診療日でおおよその収入を計算してみてください。さらに、診療報酬から医療材料費や人件費などを差し引き、年間の具体的な収支を出しましょう。
 
資金調達の内訳は、持ち出せる自己資金、医療機器のリース、借入金などが該当します。診療報酬が入金されるまでにはタイムラグがあるため、運転資金は十分な金額を用意しておかなければなりません。
 
なお、整形外科の開業資金の目安については以下の関連記事で詳しく解説しています。
 
→関連記事「整形外科の開業資金はどれくらい?初期費用が高い理由と資金調達方法を解説

 

3.開業形態の選定

開業形態には、大きく分けて戸建てもしくはビル内のテナントの2種類があります。
 

戸建て

戸建てのメリットとしては、間取りを自由に設計できる、駐車場を確保できる、将来的な増築や改築が可能、資産として残るなどが挙げられます。郊外にクリニックを開業する場合、車の来院が多いため駐車場を確保できる戸建てが有利です。また、テナントと異なり、自宅とクリニックを併設することも可能です。

 

ただし、建物のメンテナンス、土地と建物に対する固定資産税など、テナントよりもコストが高くなることが一般的です。

 

テナント

テナントは開業コストを安く抑えられるうえに、施設のメンテナンス費用も管理費に含まれるためランニングコストが明確で、収支を見通しやすいこともテナントの魅力です。戸建てと違って開業期間が短く済むうえに、駅前や商業施設などの人が多い場所に開業することも可能です。通勤のしやすさから、スタッフを確保しやすいメリットもあります。
 

ただし、テナントはスペースが限られているため、設計における自由度は低くなります。また、アクセスが良いからこそ、近隣に競合のクリニックが多いことも少なくありません。
 

4.開業地の選定

開業地を検討する際は、人口や住民の年齢層、人の行動範囲、利便性、エリアの競合などもチェックする必要があります。実際に現地に赴き、自分の足で歩いて街の様子を見ることも大切です。患者のターゲット層となる年齢の人が歩いているか、坂道が多く地理的に通いにくくないかなど、自分の目で確認しましょう。
 
また、最適な開業地選びが難しい場合、クリニックの開業に携わるコンサルタントに相談することも一つの方法です。
 
なお、クリニックを開業する場合、不動産の契約前に保健所に開業を相談することが大切です。クリニックの名称が使えない、開業できない物件など、開業届を提出するタイミングで保健所から却下される可能性があるためです。
 

5.資金調達

開業地・物件探しと平行して、資金調達を進めます。融資を受けるには審査に時間を要します。少なくとも、開業予定の半年前までには融資を完了させておきましょう。
 
また、建物に関する費用、今後発生する医療機器や備品など費用を考慮し、余裕のある金額で融資を申請することをおすすめします。予想外の出費が発生する可能性や、無収入の間の生活費も含めて金額を検討することが大切です。
 
なお、詳細な事業計画書を作成しておくと、事業内容が明確になり、融資による資金調達がしやすくなります。事業計画書の作成は、開業コンサルタントなどプロに依頼したほうがよいでしょう。
 
融資を受ける際は、審査のハードルや金利が低い、公的融資(日本政策金融公庫や福祉医療機構)の利用がおすすめです。ただし、公的融資は事業計画書の提出が必須のため、事前に綿密な準備をしておいてください。
 

6.内装工事業者の選定、施工

テナントの賃貸契約の締結後、内装工事に着手します。内装業者の選定は、開業予定の4ヵ月前までを目安に決めておくとよいでしょう。
 
整形外科クリニックの場合、各所のアプローチはバリアフリー設計が基本です。さらに、内装のデザインや色彩など、ターゲットとなる患者の視点から設計を考える必要があります。一般的な建物とは設計が異なるため、クリニックの施工経験がある業者への依頼が望ましいでしょう。
 
理想を追求するとコストが高くなるため、患者にとって本当に必要なものを用意することが大切です。また、設計や内装が医療法や建築基準法などに準拠しているか、コンサルタントなどにチェックしてもらうとよいでしょう。

 

なお、内装工事の費用を抑えたい場合、クリニックの居抜き物件を活用するのもおすすめです。整形外科の居抜き物件の場合、一部の修繕で開業でき、大幅なコストダウンが見込めます。医療機器や処置台、待合室の椅子など、備品が残った状態の物件に出会えればコストをより抑えることができます。

 

7.医療機器の選定

内装工事業者の選定と平行して、診療に使用する医療機器を選定します。開業までに使用方法などを確認できるよう、遅くとも開業日の1ヶ月前には導入できるよう手配するのがよいでしょう。

 

診療科を問わず、開業時には電子カルテの導入が必要です。電子カルテは看護師や医療事務も使用するため、操作しやすいものを選んでください。

 

その他必須ではない医療機器は、経営的に採算が取れない見込みの場合は避けたほうが無難です。コストを抑えて医療機器を購入する際は中古品を選ぶ、リースを活用するなど工夫するとよいでしょう。

 

医療機器のコストを極力抑えるため、最低限の医療機器のみをそろえ、精密検査は周辺の病院・クリニックと連携するといった方法もあります。なお、必要な医療機器を選定する際は、医療機器を取り扱う代理店や、付き合いのあるメーカーに相談するのも一つの手段です。

 

8.税理士の選定

クリニックの経営は納税義務が発生するだけでなく、医療機関の会計業務は専門的な知識が必要です。そのため、医療機関の税務経験や経営ノウハウを持つ税理士に業務を依頼することをおすすめします。

 
クリニックで税理士を雇用するメリットには以下のものが挙げられます。
 

  • 帳簿の記帳や税務申告などの業務を任せられる、税務申告のミスが減る
  • 経営に関するアドバイスが得られる
  • 医療法人化の手続きがスムーズになる

 
税理士や公認会計士を探すには、知り合いの開業医などの医療関係者、コンサルタント、税理士紹介サービスなどから紹介してもらうことが一般的です。なお、税理士や公認会計士と契約する場合、顧問料の相場は月5万円~8万円程度とされています。

 

また、税理士や公認会計士のほか、労務関係周りを任せられる社会保険労務士をスタッフとして雇用してもよいでしょう。

 

9.ホームページや広告の準備

クリニックの開業を知ってもらうには、ホームページ・SNSの開設やチラシ配布などの広告宣伝活動が必要です。
 
開業のめどが立った時点でホームページやSNSアカウントなどを作成し、開業を知らせるとよいでしょう。ホームページは診療内容やコンセプトをわかりやすく伝えるだけでなく、患者目線で作成することも重要なポイントです。

 

患者の利便性を考慮し、ホームページ内に予約機能を設けておくと集客に役立ちます。ホームページの作成が難しい場合は、医療機関のホームページ作成の経験が豊富な業者に依頼してもよいでしょう。

 

なお、クリニックの広告を作成する際、ターゲット層に合った広告媒体を選び、医療広告ガイドラインに準拠するなど、具体的な広告戦略を立てることも重要です。

 

整形外科クリニックにおける広告戦略は、以下の関連記事で詳しく解説しています。
 
→関連記事「整形外科開業を成功させる経営戦略とは?失敗パターンとマーケティング・差別化による経営戦略のコツ
 

10.スタッフの採用活動

受付や事務、看護師、技士などを雇用するため、できれば開業日の半年前までには採用活動を開始しておく必要があります。採用がスムーズにいかないことも考慮して、できるだけ早めに準備を始めるのがよいでしょう。

 

ホームページでの告知だけでは十分に周知されない可能性もありますので、求人サイトなどを活用するのが一般的です。

 

新規開業する際、クリニックでの勤務経験があるスタッフは心強い存在です。こういった経験やスキルを持った人材を確保するためには、経験者専門の求人サイトを利用する方法もあります。
 

11.行政機関の手続き

個人でクリニックを開業する場合、さまざまな行政機関の手続きが必要です。

 

まず、開業から10日以内に、管轄の保健所で診療所開設届を提出します。診療所開設届を提出する際、以下の添付書類(各2部ずつ)も準備する必要があります。

 

  • 開設する医師の免許証の原本・写し、履歴書
  • 従事する医師の免許証の原本・写し、履歴書
  • 敷地周辺の見取図(道路と建物の位置関係)
  • 敷地の平面図
  • 建物の構造概要・平面図
  • 土地・建物の登記簿謄本または賃貸借契約書の写し
  • エックス線診療室放射線防護図
  • 診療所への案内図
  • 看護師や薬剤師を雇う場合には免許証の写し

 

また、保険診療を実施するには、管轄の地方厚生局に保険医療機関指定申請を提出する必要があります。申請から受理までに1ヵ月程度を要するうえに、厚生局によって提出期限が異なります。提出が遅れると保険診療の開始も遅くなり、診療報酬が受け取れないことで資金繰りに影響するので注意が必要です。

 

上記の書類以外に、必要に応じて以下のような届出や申請手続きを行います。整形外科は多くのスタッフを雇用するため、施設に関するものに加えて従業員に関する届出も必要になります。
 

保健所 診療用エックス線装置備付届
診療所使用許可申請書 など
社会保険事務所 保険医登録申請書
保険医療機関指定申請書
税務署 開業届
青色事業専従者給与に関する届出書
源泉徴収の納期の特例の承認に関する届出書
労働基準監督署 労災保険指定医療機関指定申請書
労働保険の保険関係成立届
年金事務所 健康保険・厚生年金保険新規適用届
労働局 雇用保険適用事業所設置届

 

整形外科クリニックの成功につながるポイント

説明する人
 
整形外科クリニックの経営を成功させるには、以下のポイントを意識することが重要です。
 

医師会への入会

医師会の加入はあくまでも任意ですが、開業医が加入するとさまざまな恩恵が受けられます。

 

医師年金制度、医師国民健康保険組合や賠償責任保険の加入など、勤務医と同等の保障が得られます。また、行政が行う検診・予防接種の受託が可能になるため、収益アップが見込めることもメリットの一つです。

 

開業医同士で交流する機会が増えることで、連携できる医療機関を見つけることも可能です。さらに、医師会では講習会や研修会を実施することもあるため、医療に関する最新の情報を収集することもできます。

 

介護事業を見据えた事業計画

整形外科は高齢者の患者が多いこともあって、リハビリテーションを診療内容に組み込む重要性が増しています。

 

国の方針で医療保険から介護保険への移行を促していることもあり、整形外科には介護事業を見据えた事業計画が必要です。運動器リハビリテーションの充実に加え、通所リハビリテーション(デイケア)の実施で長期的な利益の確保につながるとされています。

 

運動器リハビリテーションの実施をきっかけに、経営に成功した事例を2つ紹介します。事例の通りにすればうまくいく訳ではありませんが、ご自身のクリニック運営を考える際の参考になるのではないでしょうか。

 

<理学療法士の採用で運動器リハビリテーションを導入した事例>

  • 理学療法士の採用をきっかけに、物理療法から運動器リハビリテーションに移行
  • 症状が明らかに改善したことが評判を呼び、患者の増加と信頼の獲得に成功
  • 経営の成功を受け、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションの開業を目指すことに

 

<からだ年齢検診の併用を実施した事例>

  • メインの運動療法と平行して、運動器リハビリテーションの予約も実施
  • 運動器リハビリテーションと同時に、希望者に対し筋肉年齢や血管年齢、骨年齢、姿勢や歩く方などの「からだ年齢検診」を実施
  • 姿勢や歩き方の補正は理学療法士がトレーニング指導にあたることで、高齢者だけでなく若年層の集客に成功

 

内覧会の実施

内覧会とは、地域住民にクリニックの開業をお披露目するイベントのことです。オープン前、あるいは直後に内覧会を実施すると、クリニックの存在を知ってもらうことで安定した集客を図ることができます。

 

地域住民に対し、診療方針や設備を直接説明できるうえに、その場で質疑応答することも可能です。医師やスタッフが直接コミュニケーションを取ることで、地域住民からの信頼感を得られるメリットもあります。

 

内覧会の時点で診療予約を受け付けると、新規顧客の獲得も可能です。開業後にありがちな「患者が集まらない」という不安が軽減され、安定した経営が期待できでしょう。

 

なお、内覧会に足を運んでくれた地域住民に対し、ノベルティを配布するのもおすすめの方法です。ノベルティにクリニックのロゴを入れるなど工夫することで、より認知されやすくなります。

 

まとめ

整形外科クリニックの開業は1年以上の準備期間が必要で、スケジュールを組んだうえで着実に準備を進めることが大切です。テナントや戸建て、居抜き物件など、クリニックの形態で費用や開業期間が異なります。クリニックを開業する動機と診療方針を踏まえ、最適な形態を選ぶことが大切です。

 

また、開業地の選定や資金調達など開業準備のみに注力するのではなく、医師会の加入や内覧会の開催など、労働環境の整備や集客を見据えた取り組みも必要になります。整形外科は高齢者の患者が多いため、介護事業も含めた事業計画を立てましょう。
 
本記事に記載しております内容は、2023年11月時点の情報を元にしております。
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<監修者>

リアン総合事務所
所長 吉田 茂治(よしだ しげはる)

 

プロフィール

大学卒業後、信託銀行に勤務した後、銀行再編を機に退職。税理士だった祖父への憧れから会計事務所で働きながら資格取得に励み、税理士資格を取得。その後、独立開業。

 

現在は、多数の創業支援や中小企業の経営計画書の作成、会計、税務、資金繰りのアドバイスを行い、経営者の意思決定の支援等に携わる。